2019.04.30 09:08城砦 アラフィフ引きこもりの言い分 10「まぁ、でもお父さんもお母さんも かなりのお歳なんじゃない? 幾ら貯金があると言っても、自分たちの暮らしだけでも楽ではないはずだよ。柊子が家にいることを許してくれて 生活費も負担してくれているのだったら、…恵まれているというのは言葉が適切じゃないかも知れないけれど、まだ救われている部分があると言えないことも無いんじゃないかな?」、二重否定のオンパレードだ。柊子を再燃させずに話をまとめるためとは言え...
2019.04.29 08:45城砦 アラフィフ引きこもりの言い分 9「その大島って子はすっかり先生気取りでいい気になって。新システム稼働してからは朝から晩までみんなして大島さん大島さんよ。一般社員ばかりじゃなく、情シスの講習を直接受けたはずの係長まで『大島くん、これどうやるんだっけ?』なんて相好崩しちゃってさ。無能なクソ上司がバカ女を余計につけ上がらせる構図よね。で、大島が私に、頼んでもいないのに『佐野さんは大丈夫ですか?分かりますか?』って勝ち誇ったような顔での...
2019.04.28 11:10城砦 アラフィフ引きこもりの言い分 8「バカ」とか「クソ」という言葉をたまに使う分にはいい。けれど何度も何度も繰り返し聞いているとだんだん胸が悪くなる。その不快さは昔インターネット上のアングラ掲示板で毒のある書き込みを目にしたときに感じた悪寒によく似ている。大量に毒のある書き込みをする人っていうのは暇を持て余しているのだろうと思う。今の柊子も同じなのではないか、という考えが胸をよぎる。それにしても不思議に感じるのは、彼女が話しているの...
2019.04.27 14:38城砦 アラフィフ引きこもりの言い分 7 僕は聞きながら「ちょっと待ってくれ」と心の中で幾度も呟いた。僕が聞いているかぎり彼女は入社後3年ほどで辞めたと聞いており、その短い期間に彼女が職場全体のルールを作るような権限を持ったとは思えない。おまけに彼女がつくったルールとやらには「30分前に出社」だの「先輩が帰るまで帰らない」だの明文化することが労働基準法上問題になりそうなことが含まれるし、出勤時間や退勤時間に関することは就業規則や労働契約...
2019.04.24 14:23城砦 アラフィフ引きこもりの言い分 6「まぁ入社直後からいろいろあったんだけどね。私と幾つも歳のちがわない、バブル期入社の上司は自分の指示の仕方がよくないのを棚に上げて私が指示通りのことを出来ていないってブツブツ言い続けるし、同じくバブル入社組のババアはといえば、やれオフィス内でメイク直しするなだのノースリーブ着てくるなだの、仕事と関係無いいちゃもんを連発するし。あれだからバブル入社組は困りものよね」 ふと気付けば窓の外は夜の街だった...
2019.04.21 10:13城砦 アラフィフ引きこもりの言い分 5「『親の言うなり』って、たとえばどんなことで言いなりになったの?」「全部。ぜんぶよ。何もかも。」吐き捨てるように言ってから、彼女は思い出したように紅茶のカップを持ち上げた。けれどもせっかく持ち上げたカップに口をつけることなくソーサーの上に戻す。陶器同士がぶつかり合いティースプーンが揺れる音がした。「私ね、本当は法律を勉強したかったの。」「法律かぁ」「そう法律。弁護士になるつもりだったのよ。弱い立場...
2019.04.19 12:46城砦 アラフィフ引きこもりの言い分 4僕は一度だけ会ったことのある彼女の両親がどんな風だっただろうと思い出してみた。おぼろげな記憶ではあったけれど、父親は浅黒く日焼けして大きな声で話す気さくな人で、どことなく体育会系の趣があった。母親は柊子よりもひとまわり背が低くて、育ちが良さをうかがわせる上品な話し方をした。そういえば父親が僕らに食事をふるまうために別室から重たそうなテーブルを運んできた、その様子だけをなぜか鮮明に覚えている。柊子は...
2019.04.18 11:52城砦 アラフィフ引きこもりの言い分 3「私ね、子供の頃から自分のしたいことを何一つやらせてもらえなかったの。」彼女の表情や口調から爽やかさがいつの間にか消えていた。僕のほうに向き直り、彼女は語り始めた。「私がピアノを習いたいと言ったときも、バレエをやりたいと言ったときも、うちにはそんな余裕はありませんの一点張りでやらせてもらえなかった。妹は書道教室にも行ったし公文にも行ったのよ。子供心に、この違いは何なの?って思った。今になって思い返...
2019.04.17 11:56城砦 アラフィフ引きこもりの言い分 2城砦 アラフィフ引きこもりの言い分 1 の続き柊子が卒業後、大手電機メーカーに就職したことを僕は彼女自身から聞いていた。そしてその後3年ほどで彼女がその会社を辞めたことは風の便りに聞いた。柊子の話はあちこちで具体性を欠いていて判然としないところが多かったけれど、僕なりに総合すれば彼女が彼女の言うところの「引きこもり」になったのはその時かららしい。だとすれば彼女の引きこもり歴はかれこれ25年にもなる...
2019.04.16 14:00城砦 アラフィフ引きこもりの言い分 1「あの人たちが私の人生を台無しにしたの。なにもかも、ぜんぶあの人たちのせいよ。」柊子(とうこ)は、彼女の両親のことを「あの人たち」と言った。 「だからあの人たちは罪を償うべきなのよ。私に対して」 朝から厚い雲に覆われた街は薄暗い。国道に面したカフェはその上を走る首都高速道路の影が落ちているせいで尚更に薄暗い。僕らは窓際の席ではす向かいに座っていた。僕のコーヒーはもうほとんど無い...
2019.04.14 06:16王妃シャックリーヌの婚礼 ~クシャミ帝国衰亡史 第一部~王妃シャックリーヌの婚礼 ~クシャミ帝国衰亡史 第一部~ 王妃シャックリーヌは、クシャミ帝国700年の歴史上最も権勢をふるったと言われるゲップ帝の正妃である。 ゲップ帝が即位した14世紀当時のクシャミ帝国では、西部にネゴト人、東部にハギシリ人という二つの民族が暮らしていた。古来ネゴト人の間では他人と出会った際に交わす挨拶として男はげっぷを、女はしゃっくりをする風習があり、それゆ...